G-SHOCKとチープカシオ。
同じカシオの腕時計ですが、この2つには、まったく違うイメージがあります。
G-SHOCKといえば、落としても壊れない頑丈さ。耐衝撃構造を備えた、カシオを代表する腕時計です。
一方、チープカシオは、安くて軽くてシンプル。数千円で購入できるモデルも多く、気軽に使える時計として親しまれています。
ところが、この2つには、意外な共通点があります。
初代G-SHOCKを開発した伊部菊雄さんは、実はチープカシオの商品企画にも深く関わっていたのです。
しかも、その代表的なモデルが、今でも購入できる「MQ-24」。
今回は、G-SHOCKとチープカシオをつなぐ、ちょっと心に残る話を紹介します。
初代G-SHOCKを生み出した伊部菊雄さん

1983年に発売された初代G-SHOCK「DW-5000C」。
その開発を中心となって進めたのが、カシオの技術者・伊部菊雄さんです。

きっかけは、大切にしていた腕時計を落として壊してしまったこと。
「落としても壊れない時計を作りたい」
そんな思いから、従来の腕時計の常識を覆す耐衝撃構造の開発が始まりました。
試行錯誤の末に完成したG-SHOCKは、やがて世界中で愛されるブランドへと成長します。
現在では、手頃な樹脂モデルから数十万円以上する高級モデルまで、幅広いラインアップが展開されています。
G-SHOCKファンなら、伊部さんの名前をご存じの方も多いのではないでしょうか。
しかし、伊部さんの時計づくりは、G-SHOCKだけではありませんでした。
実は、チープカシオの商品企画にも関わっていた
時計専門メディアのHODINKEE Japanに、興味深い記事が掲載されました。
G-SHOCKの生みの親である伊部菊雄氏ですが、実は彼が手がけたシンプルなアナログ時計「MQ-24」も40年近く愛される大ベストセラーです。
時計メディア「HODINKEE Japan」2025年9月のインタビュー記事では、実際に伊部氏がMQ-24をご自身の腕に着用されている非常に素敵なお写真を見ることができます。
Core in the Standard: カシオブランドの根幹をなす時計たち
このインタビューで、伊部氏はお気に入りのMQ-24を着用して登場し、自身がカシオのスタンダードウォッチについて語っています。
伊部菊雄さんが具体的に関わったと明言されているのはMQ-24、AQ-230ですが、上記記事の写真にはF-91WやA159、A168、オシアナスOCW-500なども伊部さんが関わった時計に挙げられています。
現在「チープカシオ」と呼ばれている時計の多くは、カシオ社内では長年「スタンダードジャンル」と呼ばれてきました。
伊部さんは、G-SHOCKの開発後、第1次G-SHOCKブームが訪れる数年前に、
このスタンダードジャンルを担当する部署へ移っています。
当時、このジャンルは決して華やかな仕事ではなかったそうです。
低価格の腕時計は、販売価格が安い分、製造コストにも厳しい制約があります。
その中で、どうすれば品質がよく、長く使ってもらえる時計を作れるのか。
伊部さんが掲げた目標は、「最低でも10年売れ続ける時計を作ること」でした。
そのために重視したのが、次の3つです。
- 高品質であること
- 誰でも購入できる価格であること
- 時代に左右されない、普遍的なデザインであること
高価な時計を作ることとは、まったく違う難しさがあります。
しかし、限られたコストの中で、長く愛される時計を作る。
そこにも、伊部さんのものづくりへのこだわりがあったのです。
伊部菊雄さんが手がけた名作「MQ-24」
その代表的な時計が、1987年に登場した「MQ-24」です。

丸いケースに、3本の針。日付表示も、ストップウォッチもありません。
時刻を知るために必要なものだけを残した、とてもシンプルな腕時計です。
しかし、そのシンプルさこそが、MQ-24の魅力でもあります。
HODINKEE Japanの記事では、伊部さんがMQ-24の企画に携わり、部品点数を抑えながら、見やすさや軽さ、耐久性を追求したことが紹介されています。
発売から長い年月が経過しても、MQ-24は現在まで続くロングセラーとなりました。
1987年に生まれた時計が、2026年になっても普通に購入できる。
それだけでも、すごいことだと思います。
伊部さん自身も着用している「MQ-24-7B2」
さらに興味深いのは、先ほども紹介しましたが、伊部さん自身がMQ-24を着用していることです。
カシオ公式サイトでも、伊部さんが白文字盤の「MQ-24-7B2」を着けている写真が紹介されています。


このモデルは、白い文字盤に黒い数字と針を組み合わせた、非常にシンプルな時計です。
重さは約20g。価格も手頃で、普段使いしやすいモデルです。
G-SHOCKの生みの親が、こうした安価でシンプルな時計を気に入って身に着けている。
私は、この話がとても好きです。
MQ-24-7B2の特徴や伊部さんとの関係については、こちらの記事でも詳しく紹介しています。

伊部さんはYouTubeのインタビューで、MQ-24の商品企画に関わったことを明かし、
この時計への強い愛着を語っています。


G-SHOCKとMQ-24。違うようで、どこか似ている
初代G-SHOCKのDW-5000Cと、チープカシオのMQ-24。


並べてみると、まったく違う時計です。
G-SHOCKは、衝撃から時計を守るために独自の構造を採用しました。
一方、MQ-24は、時計に必要な機能を絞り、シンプルさと手頃な価格を追求しました。
目指した方向は異なります。
しかし、私はこの2つの時計に、共通する考え方を感じます。
必要な価値を明確にして、それを徹底的に追求すること。
G-SHOCKでは、耐衝撃性。
MQ-24では、見やすさ、軽さ、手頃な価格、そして飽きのこないデザイン。
どちらも、単に多機能であることや、高価であることを目指した時計ではありません。
それぞれの目的に対して、必要なものを突き詰めた時計なのだと思います。
さらに驚くことに、初代MR-Gにもつながっていた
そして、もう一つ面白いエピソードがあります。
G-SHOCKの高級ラインとして知られる「MR-G」。

実は、その誕生にも、スタンダードウォッチの開発経験が関係していたそうです。
HODINKEE Japanのインタビューによると、伊部さんたちは、低価格の時計で厳しいコスト削減に取り組む中で、
いつか制約に縛られない時計を作りたい
と考えるようになりました。
そこから生まれたのが、初代MR-Gだったというのです。
これは、なかなか興味深い話ではないでしょうか。
安価な時計の開発で積み重ねた経験が、今度は高級時計の誕生につながっていく。
チープカシオとMR-G。
価格もコンセプトも大きく違いますが、その歴史は意外なところでつながっていたのです。
チープカシオは、決して「安いだけの時計」ではない
チープカシオという呼び名には、親しみやすさがあります。
一方で、「安い時計」「簡素な時計」というイメージを持つ方もいるかもしれません。
もちろん、高級時計と比べれば、素材や仕上げ、機能には違いがあります。
しかし、安いからといって、何も考えずに作られた時計ではありません。
むしろ、価格に制約があるからこそ、必要なものと不要なものを厳しく見極めなければならない。
限られた条件の中で、品質と使いやすさを両立させる。
それは、それで非常に難しいものづくりだと思います。
伊部さんが目指した、長く売れ続ける時計。
MQ-24は、その考え方を今に伝える一本なのかもしれません。
まとめ:G-SHOCKとチープカシオをつなぐ、時計づくりの思い
G-SHOCKとチープカシオ。一見すると、まったく違う時計です。
しかし、その両方に伊部菊雄さんが関わっていたことを知ると、少し見方が変わってきます。
落としても壊れない時計を作ろうとしたG-SHOCK。
誰でも購入でき、長く使い続けられる時計を目指したMQ-24。
どちらにも、使う人のことを考え、必要な価値を追求する姿勢が感じられます。
そして、MQ-24は今も、身近な価格で購入できます。
G-SHOCKの生みの親が手がけた時計を、特別なものとして飾るのではなく、普段の生活で気軽に使える。
そう考えると、チープカシオが少し特別な時計に見えてきませんか。
G-SHOCKファンの方にも、ぜひ知っていただきたい話です。





